バイオフィリアとは?オフィス緑化とどう違う?効果や導入方法まで徹底解説

現代のオフィスは、単に働く場所から、従業員の創造性や生産性、心身の健康を育む空間へと変化しています。このような背景から、今「バイオフィリア」という概念が世界中の企業で注目を集めています。
本記事では、バイオフィリアが何を意味し、なぜ現代オフィスで重要なのか、その効果や導入方法、注意点、そして事例までを詳しく解説します。この記事が、未来のオフィス空間をデザインするための一助となれば幸いです。
目次
バイオフィリアとは?人間が本能的に自然を求める理由

「バイオフィリア(Biophilia)」は、ギリシャ語の「bios(生命・自然)」と「philia(愛好)」を組み合わせた言葉で、「生命愛」「自然愛」などと訳されます。
これは、人間が本能的に自然や生命を愛し、深いつながりを求める傾向を持つという考え方です。単に「自然が好き」という感情にとどまらず、心身の健康や幸福のために自然との触れ合いが不可欠であるとする、人間本来の欲求を指します。
バイオフィリア仮説とその提唱者ウィルソン博士
この概念を広めたのは生物学者のエドワード・オズボーン・ウィルソン博士です。1984年の著書『バイオフィリア』で、人間は進化の過程で長く自然と共に生きてきたため、本能的に他の生物や生命とつながりを求めるという「バイオフィリア仮説」を提唱しました。人間は本能的に自然に触れて癒やしや感動を覚え、自然や生命とのつながりが心身の幸福につながるのだ、と説きました。
ちなみに「バイオフィリア」という言葉を最初に使用したのは、社会心理学者・精神分析家のエーリッヒ・フロムです。彼はバイオフィリアを「生命を愛し、成長するものに惹かれる心理」と定義しました。ウィルソン博士はフロムの考えを生物学的に発展させ、人間の進化と自然界との関わりにおける仮説として構築したのです。
バイオフィリアのオフィスへの導入が注目される理由3点

近年、オフィス環境のあり方が見直される中で、バイオフィリアへの注目が急速に高まっています。その背景を説明します。
1.働き方の変化とウェルビーイングなオフィスへの関心の高まり
テレワークの普及により働く環境の質が重視されるようになり、心身ともに健康でいられる「ウェルビーイング」なオフィスが求められています。バイオフィリアはストレスを軽減し心地よさをもたらすため、ウェルビーイングなオフィス実現の有効な手段とされています。魅力的な職場環境は、人材獲得や定着にも繋がる大切な要素です。
2.経営課題としてオフィス環境が重要に
従業員の健康は、企業の成長に不可欠です。健康な従業員は集中力や創造性を高く保ち、企業に利益をもたらします。バイオフィリアを取り入れたデザインは、ストレス軽減、集中力向上、心身のリフレッシュを促し、健康経営を推進する上で重要です。
3.SDGsやサステナビリティへの注目の高まり
自然の光を取り入れたり植物を置いたりすることは、環境への負担を軽くし、SDGsの目標達成にも役立ちます。また、社員の健康や働きがいを大切にする姿勢は、ESG投資の視点からも評価され、会社の価値を高めることにもつながるでしょう。
こうした社会的な背景をもとに、バイオフィリアなオフィスが注目を集めています。
「バイオフィリックデザイン」と「オフィス緑化」の違いとは?

「バイオフィリア」の概念をオフィス環境に応用するアプローチが「バイオフィリックデザイン」です。これは単なる「オフィス緑化」とは異なります。ここからは、バイオフィリックデザインとオフィス緑化の違いを説明します。
バイオフィリックデザインの定義
「人は本能的に自然を求める(バイオフィリア)」という考えに基づいたデザインのことです。建物や街のなかに、本物の自然や、自然を感じさせる工夫を取り入れることで、私たちの心と体の健康や、幸せな気持ちを高めることを目指します。
これは、単に自然の見た目を真似るのとは少し違います。人がもともと持っている「自然とつながりたい」というさまざまな願いを、空間の中で感じられるようにし、そこにいる人がその良い影響を受け取れるように考えられたデザイン手法です。
バイオフィリックデザインは「オフィス緑化」を超える総合的アプローチ
オフィス緑化というと、主に植物を置いて見た目をきれいにしたり、空気をきれいにしたりするなど、限られた効果を目的とすることが一般的です。これに対してバイオフィリックデザインは、もっと幅広く考えます。
植物はもちろんのこと、太陽の光の取り入れ方、使う素材、壁や家具の色合い、心地よい音や香り、そして空間全体の雰囲気づくりまで、さまざまな要素をトータルで計画します。このように五感全体にやさしく働きかけることで、私たちの心と体のより深い部分にまで届くような、良い影響を目指すのがバイオフィリックデザインです。
特徴 | オフィス緑化 | バイオフィリックデザイン |
---|---|---|
スコープ | 主に植物の導入 | 自然との多様なつながりを演出する |
使うもの | 植物、鉢植えなど | 植物、自然光、水、素材、自然の色、眺望、音、香り、空間構成など |
目的 | 美観向上、限定的な効果(空気清浄など) | 総合的なウェルビーイングの実現、生産性・創造性向上、ストレス軽減 |
アプローチ | 表層的、追加的(あとから追加するイメージ) | 統合的、設計思想(初めから設計に取り込むイメージ) |
バイオフィリアの効果・メリット6点

オフィスにバイオフィリアを取り入れることは、科学的な研究によって裏付けられた多くのメリットをもたらします。
1.従業員のウェルビーイング向上とストレス軽減効果
国際的な調査機関であるロバートソン・クーパー社が2015年に発表した「ヒューマンスペース・レポート」によると、職場に自然要素がある従業員は、そうでない従業員と比較してウェルビーイングが15%高いという報告があります。オフィスの中に緑があったり、窓から自然の景色が見えたりするだけでも、心のストレスが減り、緊張や不安、疲れも和らぐことが分かっています。
2.生産性向上
前述のロバートソン・クーパー社のレポートには、自然を感じられるオフィスで働く人は、そうでない人に比べて仕事の生産性が6%高いというデータもあります。これは、ストレスが減ること、集中しやすくなること、空気がきれいになること、やる気が出ることなどが、良い方向へ影響し合った結果と考えられています。
3.集中力・思考力の向上
自然の中にいると、無理に頑張らなくても自然と注意が向き、使ってしまった集中力が回復すると言われています(これは「注意回復理論」とも呼ばれます)。オフィスに植物があるだけでも、心の疲れが和らぎ、集中する力や考える力が戻ったり、さらに高まったりする可能性があるのです。実際に、文章を覚えるテストの成績が良くなったり、緊張・不安・疲れが減ったりした、という研究結果もあります。
【参考】オフィス環境において室内植物が注意力に与える有益な効果│ノルウェー生命科学大学
【参考】オフィスにおける植物の設置が勤務者の心理に及ぼす影響│千葉大学
4.創造性の向上
前述のロバートソン・クーパー社のレポートでは、自然要素のある環境で働く従業員は、創造性が15%高いと報告されています。自然のさまざまな形や変化に触れることで、考え方が柔軟になり、新しいアイデアが生まれやすくなると考えられています。
5.コミュニケーション活性化とチームワーク強化
リラックスできる心地よい空間では、社員同士の自然な会話が生まれやすくなり、チームの協力体制が強まることも期待できます
6.企業イメージ・ブランド価値の向上と採用への好影響
自然を大切にしたオフィスは、その会社が新しいことに積極的だったり、社会に貢献しようとしていたりする良いイメージにつながります。特に、環境問題に関心があったり、働きがいを大切にしたりする若い世代には魅力的に映るため、良い人材が集まったり、長く会社にいてもらえたりする大きな助けになるでしょう。
ちなみに、建物の健康や快適さを示す国際的な認証「WELL認証(WELL Building Standard)」でも、バイオフィリックデザインは評価される大切なポイントの一つです。
【参考】WELL認証│GREEN BUILDING JAPAN
バイオフィリア導入のデメリットとその対策は?

多くのメリットがある一方で、バイオフィリア導入にはいくつかの課題も存在します。ここでは4つの課題とその対策をご紹介します。
1.維持管理(メンテナンス)の手間とコスト
本物の植物には水やりや手入れが不可欠で、特に大規模な緑化は専門的な知識やコストが必要です。
【対策】手入れの簡単な植物を選ぶ、植物レンタル・リースサービスを活用する、フェイクグリーンも検討する。
2.初期導入コスト
大規模な改修や壁面緑化にはコストがかかります。
【対策】まずは手軽な施策から始める「スモールスタート」や段階的な導入を行う。初期費用だけでなく、生産性向上や離職率低下による長期的な「費用対効果(ROI)」を検討する。助成金や補助金の活用も検討する。
3.スペースの制約と動線・避難経路への配慮
植物や設備の配置がスペースを圧迫したり、動線を妨げたりする可能性があります。
【対策】緻密な空間計画を行う。壁面緑化やハンギングなど「垂直空間」を有効活用する。多機能な什器(プランター付きなど)を導入する。消防法などの安全基準を遵守し、安全性を最優先に配置計画を立てる。
4.アレルギーや害虫への懸念
植物の種類によってはアレルギーを引き起こしたり、手入れ不足で害虫が発生したりする可能性があります。
【対策】従業員への事前確認を行う。低アレルゲン性の植物を選ぶ。適切な維持管理と衛生管理を徹底する。土を使わない栽培方法(ハイドロカルチャーなど)を検討する。アレルギー懸念が大きい場合はフェイクグリーンも選択肢となります。
これらのデメリットは、事前の計画と適切な対策によって十分に管理可能です。
オフィスへのバイオフィリアの取り入れ方・アイデア

バイオフィリックデザインでは、人と自然のつながりを色々な角度から見て、主に次の3つの方法で空間に取り入れていきます。
1.本物の自然を「直接」取り入れる
本物の自然をそのまま取り入れる方法です。
- 観葉植物を置く:一番手軽に始められる方法です。視界に入る緑の割合が10~15%になると心地よいと言われています。オフィスでも育てやすく、手入れが簡単な種類を選びましょう。
- 壁を緑で覆う(壁面緑化):壁一面を植物でデザインするダイナミックな方法です。場所を取らずに広い範囲を緑にでき、空気をきれいにしたり、部屋の温度を少し快適にしたりする効果も期待できます。ただし、費用がかかったり、専門的なお手入れが必要だったりする場合もあります。
- 水槽や小さな噴水を設ける:水の音やゆらめきは、リラックス効果を高めてくれます。目で見て、耳で聞いて癒やされる空間づくりに役立ちます。設置場所やお手入れの方法は事前に確認しておきましょう。
- 自然光を取り込む:太陽の光は、私たちの体内時計を整え、気分を明るくし、仕事の効率アップにもつながります。大きな窓やガラスの間仕切りで光を取り込みやすくしたり、窓際に休憩スペースを作ったりするのがおすすめです。照明も、太陽光に近い明るさや色に調整できるものを選ぶと良いでしょう。
- 風を取り込む:新鮮な空気は心と体をリフレッシュさせ、集中力を高めます。窓を開けて自然の風を通したり、オフィスの中で空気がスムーズに流れるように工夫したりすることも大切です。
2. 「自然らしさ」を間接的に取り入れる
自然そのものではなくても、自然を「感じさせる」ものや形、色を使う方法です。
- 木目調や自然素材を使う:木の温もりや手触りは、私たちに安心感を与えてくれます。家具や壁などに木目調のものを取り入れると、ナチュラルでリラックスできる雰囲気になります。石や土、竹、和紙といった自然由来の素材をアクセントに使うのも、空間に深みが出ておすすめです。環境に配慮した国産の木材やリサイクル素材を使った家具も良いでしょう。
- アースカラーや自然の模様を取り入れる:緑、茶色、ベージュ、青といった自然界にある色(アースカラー)は、リラックスしやすく心を落ち着かせる効果が高いと言われています。また、自然をテーマにした絵や写真、植物の形をモチーフにしたデザイン、雪の結晶のような自然界に見られるパターンを内装に取り入れることで、間接的に自然とのつながりを感じられます。
- 音や香りでリラックス空間を演出:鳥のさえずりや川のせせらぎといった自然の音をBGMとして流すと、リラックスできたり集中力が高まったりする効果が期待できます。オフィスの気になる騒音を和らげるのにも役立ちます。森の香りや柑橘系、ハーブ系など、自然由来のアロマをほんのり香らせるのも、快適な空間づくりやストレス軽減、気分転換を促すのに効果的です。
3. 「自然の中にいるような心地よい空間」を体験としてつくる
自然の中で感じるような、空間の心地よさや安心感をデザインで作り出す方法です。
- 見晴らしの良い場所と隠れ家のような場所を作る:人は、遠くまで見渡せる開けた場所と、包まれて守られていると感じる少し隠れた場所がバランス良くあると安心すると言われています。窓からの景色を活かした開放的なエリアと、一人で集中したり、少人数で落ち着いて話したりできる半個室のようなスペースを設けるなどが考えられます。
- バルコニーやテラスをリフレッシュ空間に使う:バルコニーやテラスがあれば、そこを外の空気に触れられるリフレッシュスペースや、気軽に作業やミーティングができる場所として活用することで、自然との直接的なつながりをより深められます。
- 変化と発見のある、飽きないオフィスを作る:自然界が多様性に富んでいるように、オフィスにも異なる素材や色を使ったり、アートを飾ったり、ちょっとした隠れ家のようなスペースを作ったりと、適度な変化や新しい発見がある要素を取り入れると、働く人が飽きない魅力的な環境になります。
バイオフィリア導入を成功させるための注意点5点

バイオフィリアの効果を最大限に引き出すためには、以下の点に注意しましょう。
1.導入目的と期待する効果を明確にする
「なぜ導入するのか」「何を目指すのか」という目的を明確にすることで、具体的な施策の方向性が定まります。
2.事前に管理会社・ビルオーナーに確認する
オフィスビルに入居する場合、設置や内装変更にビル管理会社やオーナーの許可が必要な場合があります。消防法や建築基準法などの法的規制も遵守する必要があります。
3.従業員のニーズヒアリングと参加型デザインの検討
従業員の意見を収集し、可能であればデザインプロセスに参加してもらうことで、満足度の高い空間を作れます。
4.専門家(デザイナー、施工業者、メンテナンス業者)の選定と連携
本格的な導入には、専門的な知識を持つ専門家(デザイナー、施工業者、植物の専門家、メンテナンス業者など)の協力が不可欠です。適切な専門家を選定し、緊密に連携しましょう.
5.長期的な運用を見据えた計画(維持管理体制、コスト管理)
特に本物の植物が多い場合、その効果を持続させるための維持管理計画が重要です。日常メンテナンスの内容、頻度、担当者を明確にし、必要な予算を確保します。自社対応か専門業者委託かなど、持続可能な体制を構築しましょう。
バイオフィリア導入におすすめの家具やインテリア
家具やインテリアは、比較的手軽にバイオフィリア思想を取り入れ、空間の雰囲気を変えることができます。
- 素材で選ぶ:木材、石材、コルク、竹、籐、リネン、コットン、ウール、レザーなど、自然由来の素材を積極的に選びましょう。視覚的な温かみや触覚的な心地よさをもたらします。国産材やリサイクル素材を用いたサステナブルな家具も注目されています。
- 形状で選ぶ:自然界に多い曲線や有機的なフォルムのデザインを選ぶと、空間に柔らかさと動きが生まれます。
- 色で選ぶ:森林の緑や土の色、空や海の青など、アースカラーを基調とした配色が推奨されます。リラックス効果をもたらし、心地よい空間を演出します。
- 機能で選ぶ:プランターが一体化した家具や、植物を飾りやすい構造を持つ家具も効果的です。レイアウトの自由度が高いモジュール式家具も自然の多様性を模倣するのに役立ちます。
- 照明で工夫する:自然光に近い調光調色機能付き照明システムは、従業員の体内時計を整え、集中力をコントロールする効果が期待できます。光源が直接目に入らない間接照明も、柔らかく落ち着いた光環境を創出するのに有効です。
国内外の先進企業に学ぶ!バイオフィリア導入オフィス事例紹介
世界中の先進的な企業がバイオフィリアをオフィスデザインに取り入れ、その効果を実証しています。
国内事例:ヤンマー株式会社 本社ビル:
「自然との共生」をコンセプトに設計されたビルです。ガラス張りの養蜂所が設置されていたり、エントランススペースに水が流れていたり、国内最大規模の壁面緑化があったりと、ビルの随所に自然を感じる設計がなされています。「Biophilic Design Award」も受賞しています。
【参考】ヤンマー株式会社│ヤンマー本社ビルが国際的な環境建築の顕彰「Biophilic Design Award」で入賞
海外事例: Amazon Spheres(シアトル)
インターネット通販で有名なアマゾン(Amazon)の本社には、「アマゾン スフィアズ」という、まるい形をしたガラス張りの特別な仕事場があります。ドームの中は、まるで熱帯のジャングルのように、世界中から集められた4万本以上もの植物でいっぱいで、緑あふれる空間が広がっています。
これらの事例は、バイオフィリックデザインが建築や働き方を根本から見直す動きに繋がっていることを示しています。
まとめ:バイオフィリアで実現する、生産性を高める未来のオフィス
バイオフィリアは、人間が本能的に自然とのつながりを求めるという概念に基づき、オフィスにおいて従業員のウェルビーイングを高め、生産性や創造性を向上させるための重要なアプローチです。
自然光活用、植物配置、自然素材導入、自然を感じさせる空間デザインといった手法を用いることで、ストレスフルな現代オフィス環境を改善し、より健康的で人間中心の働き方を実現できます。
導入にはコストや維持管理といった課題もありますが、適切な計画と工夫、専門家の活用で乗り越えることが可能です。その先には、従業員がいきいきと働き、企業が持続的に成長するための、生産性の高いオフィス環境が待っています。
バイオフィリア導入は、大掛かりな改修だけでなく、デスクに植物を置く、窓を開けるといった小さな一歩から始めることができます。この記事が、皆様のオフィス環境改善と、人と自然が共生する未来のワークプレイス創造の一助となれば幸いです。
バイオフィリアの他にも、オフィスで知っておきたいトレンドがあります。オフィス移転やレイアウト変更を検討している方は以下の資料を参考にしてください。
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移転Biz編集室
こんにちは、移転Biz編集室です! オフィス移転の際に役立つ情報をお届けします。